種苗法は、農産物を新たに開発した育成者の権利を守るための法律で、2021年4月1日に内容が一部改正されました。改正にあたって、農業関係者はもちろん消費者の一部も強い関心を示しています。
しかし「改正の内容を理解できていない」「何が問題視されているのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、種苗法改正の概要と問題点をわかりやすく解説します。
種苗法とは?
種苗法は、農産物を新しく開発した者の権利を守る法律です。
特定の品種を適切な形で栽培・流通させることを目的に、1998年に制定されました。
新しく開発した品種を農林水産省に出願すると「登録品種」として扱われ、25年(樹木の場合は30年)の育成者権や独占販売権が認められます。
わかりやすくいうと、農産物の特許のようなものです。
国内外への品種の流出や、許可のない栽培を阻止する効力があります。
また、育成者の知的財産権を保護する役割も果たします。
種苗法改正の背景
法改正に至る背景の一つに、国内の優良品種が海外へ流出したことが挙げられます。
日本国内の優良品種は、長い年月と多額の費用を費やして開発されます。
しかし一たび海外へ流出してしまうと通常より安い価格で取引されるため、国産品が売れなくなり、開発者はもちろん農業市場にも不利益が生じます。
「シャインマスカット」やさくらんぼ品種の「紅秀峰」は、海外流出の代表的な例です。苗木や種の流出によって海外で安価に取引され、国産品の価値が下がってしまいました。
(参考:改正種苗法について|農林水産省)
このことから、国内発の種苗の価値を守るために、改正種苗法によって育成者権が強化されました。
種苗法改正で変わった3つのこと
ここからは、今回の種苗法改正で変わった3つの項目を解説します。
- 登録品種の流出を制限できるようになった
- 自家増殖が許諾制になった
- 品種登録の手数料が変更された
順番に見ていきましょう。
①登録品種の流出を制限できるようになった
改正前は、正規ルートで入手した種苗であれば海外へ持ち出す行為は違法とされていませんでした。
しかし、国内の優良品種が海外へ持ち出されて栽培・販売されるケースが増え、国産品の価値が落ちてしまったため規制が設けられました。
改正後は、育成者が登録品種の海外流出を制限可能になり、規制に反して持ち出した場合には罰則が課されます。
海外へ流出させた本人はもちろん、持ち出すと知りながら種苗を譲渡した者も、刑事罰や損害賠償の対象となるため注意してください。
また、海外への流出規制だけでなく、国内においても栽培エリアを制限できるようになりました。育成者が品種登録時に栽培可能エリアの届出をおこなうことで、指定された地域以外での栽培には許諾が必要になります。
②自家増殖が許諾制になった
自家増殖とは、購入した種を植えて育て、収穫した作物から獲れた種を再度植える行為を指します。
改正後に自家増殖をおこなう場合は育成者の許諾を得る必要があり、その際には指定の許諾料を支払わなければなりません。
ただし、育成者が増殖の許諾を不要とする場合で、その旨が公表されていれば、他の農業者は手続き不要で自家増殖できます。
育成者が管理するWebサイトや資料、または譲渡時に表示されることが多いため、確認してみるとよいでしょう。
③品種登録の手数料が変更された
通常、品種登録にかかる費用は「出願料」+「登録料」の2種類です。
しかし、種苗法改正後は「出願料」+「登録料」の他、「審査手数料」が新たに追加されました。
審査手数料とは、品種登録の過程で必須となる栽培試験や現地調査時にかかる実費相当額の手数料のこと。支払われない場合は、出願を拒絶されるため注意が必要です。
審査手数料は出願品種によって異なる場合があります。詳しくは農林水産省の資料をチェックしてください。
なお、審査手数料が追加されたことで、品種登録出願にかかる費用が増えると思われがちですが、その分出願料や登録料は改定前より引き下げられています。
改正前 (令和4年3月31日以前の出願) |
改正後 (令和4年4月1日以降の出願) |
||
出願料 | 47,200円 | 14,000円 | |
登録料 | 1~3年目 | 6,000円/年 | 4,500円/年 |
4~6年目 | 9,000円/年 | ||
7~9年目 | 18,000円/年 | ||
10年目以降 | 36,000円/年 | 30,000円/年 |
(引用元:令和4年4月1日からの出願に係る出願料・登録料及び審査手数料について|農林水産省)
種苗法改正の問題点
種苗法改正で問題視されているのは、前述した「自家増殖に関する規制」です。許諾を得る際に育成者に支払う許諾料が発生することが、農業者の負担を増やすのではないかと懸念されています。
しかし、許諾が必須となるのは品種登録された種苗のみで、全体の1割程度です。
一般品種や登録期限の切れた種苗については今までどおり許諾不要なので、自由に自家増殖できます。そのため、大きな影響を与えることはないとされています。
また仮に登録品種であっても、多くは種苗会社が開発したもののため、許諾料が多額になるとは考えにくいでしょう。
(参考:品種登録制度をめぐる情勢|農林水産省 食料産業局)
種苗法改正の罰則基準
種苗法改正により罰則基準が変更されたので、今一度確認しておきましょう。
育成者権や専用利用権を侵害した場合、以下の罰則が科されます。
対象者 | 罰則内容 |
個人 | 10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または併科 |
法人 | 3億円以下の罰金 |
法改正によって育成者が登録品種の海外流出を制限できるようになったため、制限に反し、海外へ登録品種を流出した者には上記の罰則が科されます。持ち出すと知りながら種苗を譲渡した者も対象です。
また、育成者の許諾を得ないまま指定地域外で栽培したり、自家増殖したりした場合も同じく罰則が科されます。
なお、個人で消費する菜園や花壇など、家庭菜園で種苗を楽しむ際は自由に使用可能です。
ただし、家庭菜園で増やした種苗や生産物を他人に譲渡する行為は育成者権の侵害にあたるため注意が必要です。
(参考:種苗法改正のポイント 家庭菜園向け|農林水産省)
まとめ
種苗法は、農産物を新たに開発した者の権利を守る法律です。
国内で開発された種苗の保護強化を目的に、2021年4月1日に内容が一部改正されました。
改正種苗法に基づき、登録品種が適切な形で栽培・流通されるようになれば、育成者の所得向上はもちろん農業業界の活性化にもつながるでしょう。
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